★キューバ映画祭 in サッポロ 2009★ 読書のススメ

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読書のススメ

岩波書店が発行している『読書のすすめ』第10集(2005年5月)に、池澤夏樹の「いちばん恐ろしい本」という小文が載っている。彼がいちばん恐ろしいとしているのは、岩波文庫の『コロンブス航海誌』と『インディアスの破壊についての簡潔な報告』である。

  『コロンブス航海誌』の方は、読んでいるかどうかは別として、子どもたちも知っている有名な冒険の記録で、西回りでインド(インディアス)に向かうために1942年8月にヨーロッパから旅立ったコロンブスが、カリブ海の島々に達し、1943年3月に帰着するまでのものだ。彼は10月11日にバハマ諸島の一島を「発見」し、10月27日にキューバ島も「発見」した。
 航海誌には、彼が見た他の島々と同じようにキューバ島の美しさが記されている。川辺の緑滴る樹木、やさしくさえずり、飛び交う小鳥たち、さまざまな種類の花や果物。椰子の葉で葺いた屋根を持つ小さな家屋の中には、同じく椰子の葉でつくった網や、骨でこしらえた銛などの漁具があり、つつましいけれど、落ち着いた暮らしの様子が伺える。現地で出会う人間たちについても、その姿かたちの美しさと、温順で正直な性質、賢さについて、何度も繰り返し述べられている。
 しかし、「発見」した島々で見聞きするものへの驚嘆と賛美の背後に、彼の貪欲と優越が見え隠れする。インディアスから得ようとしている金や香辛料などの富、人々のキリスト教への教化である。
 読んでいて面白いなと思ったことの一つは、マルコ・ポーロの『東方見聞録』を読んでいただろう彼が、現地住民のことばから、キューバ島を、「ジパング(=日本)」であると思い込んでいたことである。ここで、私たちが住んでいる日本と、キューバがおそらく初めて交錯する。
 
 もう一つの本『インディアスの破壊についての簡潔な報告』は、コロンブスの航海からちょうど50年後、キリスト教の聖職者ラス・カサスによって記されたものだ。この人は、先の『コロンブス航海誌』をまとめた人でもある。
  『インディアス~』には、コロンブス以後、スペインからやってきた植民者たちが、どんな極悪非道をこの地で繰り返してきたかということが、しつこいほどに語られている。
 たとえば、身重の女や産後間もない女をことごとく捕らえ、腹を引き裂きずたずたにした。一太刀で身体を真っ二つに斬ったり、一撃のもとに首を切り落とせるか、内臓を破裂させられるかを競い合った。母親から奪った乳飲み子の足をつかんで岩に頭を叩きつけた。絞首台につるし上げた人たちの下に薪を置き、生きながら火あぶりにした。などなどである。例をあげればきりがない。

 そして、コロンブスがやってきてから、100年ほど後には、キューバ島をはじめ、カリブのいくつかの島から、先住民族はいなくなった。虐殺されたり、過酷な労働に駆り出されたり、ヨーロッパから持ち込まれた病原菌に侵された結果である。その後、ここには労働力としてアフリカからたくさんの奴隷たちがやってきた。

 改めて、この歴史に触れていたら、『アイヌ神謡集』(これも岩波文庫)の序文を思い出した。19歳でこの世を去ったアイヌの少女・知里幸恵が記したものだ。はじめて読んだとき、この文章の美しさに圧倒されたのだけれど、さわりの部分を紹介したい。

 その昔この広い北海道は、私たち先祖の自由の天地でありました。天真爛漫な稚児の様に、美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は、真に自然の寵児、なんという幸福な人たちであったでしょう。  冬の陸には林野をおおう深雪を蹴って、天地を凍らす寒気を物ともせず山又山をふみ越えて熊を狩り、夏の海には涼風泳ぐみどりの波、白い鴎の歌を友に木の葉の様な小船を浮かべてひねもす魚を漁り、花咲く春は軟らかな陽の光を浴びて、永久に囀る小鳥と共に歌い暮らして蕗とり蓬摘み、紅葉の秋は野分に穂揃うすすきをわけて、宵まで鮭とる篝も消え、谷間に友呼ぶ鹿の音を外に、円かな月に夢を結ぶ。嗚呼なんという楽しい生活でしょう。(後略)

 このあとの文章で彼女は、幸福と平穏が奪われたことをつづっていくのだけれど、気候や肌の色は違っても、ここに記されているみずみずしい美しさは、コロンブスが記しているものと重なるし、そのあと起こったことは、ラス・カサスの記述と重なっている。

 映画祭で上映する映画には、日本のほとんどの映画がそうであるように、先住民族のことは描かれていない(たぶん)。コロンブスが書き記した素朴で美しい人々の姿やその慎ましい暮らしぶりを見ることはできない。だから、映画をみるにはこんなことは知らなくってもいいのかもしれない。
 だけど、お互いのなんらかの共通点を探ったり、歴史を遡ることで、新しい意味が一つ一つの映画にも、この映画祭にも、生まれてくるかもしれない。
 もっと深く知り合い、今を考える端緒になるかもしれない。(都築仁美)
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